枯葉剤被害者に寄り添って30年 北村元さん

Hajime Kitamura Agent Orange Victims

Sydney based Hajime Kitamura has visited and supported Agent Orange victims for almost 30 years Source: Yusuke Oba

ベトナム戦争終結から46年が経った今でも、現地では枯葉剤の影響とみられる被害が、第3、第4世代にまで及んでいます。北村元さんは30年近くに渡り、現地を自らの足でまわり、話を聞き、そして支援を続けてきました。


ベトナム戦争終結から46年。経済発展が続く一方で、ベトナムでは現在でも枯葉剤の影響とみられる健康被害が、第3世代、そして第4世代にまで及んでいます。

アメリカ軍によるランチハンド作戦では、北ベトナム軍が潜むジャングルを枯死させ、兵士をいぶりだすと同時に食料を奪い、弱体化させることを目的に、8000万リットルにも及ぶ枯葉剤(エージェント・オレンジ)が、空から散布されました。しかし、ヘリコプターからまかれた枯葉剤には、その生産過程で偶然生じた、猛毒のダイオキシンが366キロも含まれていたのです。 

枯葉剤を直接浴びた人、汚染された食物を食べ、水を飲んだ人は、その後あらゆる癌や疾患、流産などに苦しむようになり、その影響は親から子供へと拡大し、現在は枯葉剤によるものと見られる影響が、第4世代にまで確認されています。 

今もなお続くベトナムの苦しみを30年間に渡り支援してきた、シドニー在住のフリージャーナリスト、北村元さんは、テレビ朝日のバンコク、そしてハノイ支局長時代に、枯葉剤のニュースに触れ、「できるだけ現状を自分の目で確かめてみたい」と、東南アジアの特配員として自分を売り込んだと言います。
Hajime Kitamura Agent Orange Victims
Hajime during his home visits to remote part of Vietnam. These children have a severe forms of Ichthyosis- genetic skin disorder Source: Yusuke Oba
枯葉剤被害者の自宅や施設を自らの足でまわりながら話を聞いていくうちに、「ほっておけない問題」であると強く感じ、支援を開始。

直接会って話を聞く、衣類を届けるなどの、北村さんによる個人的な活動は、月日を重ねるうちに「より多くの人に現状を見てもらいたい」とグループでの活動へと拡大。「愛のベトナム支援隊」としての活動がはじまり、現在では東北福祉大学の生徒や教授をはじめ、オーストラリアからもメンバーが加わり、ほぼ毎年、現地での活動を行ってきました。主な活動内容は、日本国内外で集めた支援金や支援物質を、直接手渡しし、可能な限り現地の人々と接し、交流することです。
Hajime Kitamura Agent Orange Victims
One of the scholarship recipient from 2013 Source: Yusuke Oba
「これからの世代としては勉強できないと社会で生きていけない」という北村さんは、毎年複数の子どもたちに奨学金も手渡してきました。貧しい中、そして身体的障がいを抱えるなか勉強するということに「激励の意味を込めて」と話します。

毎年のツアーでは、枯葉剤被害者の施設である友好村を訪れ、スイカ割や紙飛行機大会など、グループで遊べるアクティビティなども行ってきました。「体が故障している、障がいがあるだけで近づかない人もいる」という中、この活動は、主催側、そして参加側両方にとって意味の深いものでもあります。参加した日本の学生は、また次はどういった遊びをしようと、知恵を絞るようになり、その思いが、活動の拡大にもつながっていきます。
Hajime Kitamura Agent Orange Victims
A traditional Japanese game where a watermelon is smashed with a stick while blind folded. This has become an annual event at Friendship Village Source: Yusuke Oba
北村さんは戦争の記憶を風化させてはいけない、「枯葉剤の現状と怖さを知ってもらいたい」という思いから、枯葉剤被害者の証言をまとめた著書、『アメリカの化学戦争犯罪』も2006年に発表しています。
Hajime Kitamura Agent Orange Victims
From Hajime's blog "Love and Support Vietnam" dated 16th Dec 2017 (with permission) Source: Goro Nakamura
上記の写真は、1995年、北村さんがタインホア省を訪れたときに出会った「ムコ多糖症」を持つ姉妹の1人を写したものです。著書、『アメリカの化学戦争犯罪』では「私たちにはなぜ髪の毛も歯もないの」というタイトルで、この姉妹、そして両親について記されています。日々症状が進行していく「ムコ多糖症」は、さまざまな臓器に障害を起こし、ほとんどの患者の寿命は10歳から15歳までといわれています。この姉妹も、若くして亡くなられました。

北村さんはこれまでの活動で延べ、500人以上を超える枯葉剤被害者の自宅や施設を自ら訪れ、話を聞いていきました。『アメリカの化学戦争犯罪』にはそのごく一部が掲載されています。
Hajime Kitamura Agent Orange Victims
Hajime has interviewed over 500 victims and their families during his 3 decades of work Source: Yusuke Oba
5月10日には、1人のベトナム系フランス人女性が、枯葉剤を製造・販売したアメリカの製薬会社14社を相手取って起こした歴史的な訴訟の判決が言い渡されました。判決は、アメリカ政府が戦時中に起こした行動について裁く管轄権を持たないということを理由に棄却。原告のチャン・ト・ガさんは判決を不服として、控訴すると述べています。

元ジャーナリストである1人の女性が起こした訴訟を、北村さんも見守ってきました。非常に難しい裁判であることはわかっていたものの、「勝ってほしい、それにより正義が広がる」と願ってきました。

今回の判決について「非常に残念である」、「枯葉剤被害の訴訟という非常に高い壁をやっぱり超えることはできなかった」と語る北村さん。

そして何よりも「枯葉剤被害者への思いやりというものが世界的に不足している」と痛感したと言います。

「一番欠けているのが被害者への支援」という北村さんは、それをなんとか形にして「世界へ広げたい」と語ります。この支援とは、ベトナムに限らず、仲間であったオーストラリア、アメリカ、韓国、日本の被害者へも当然適応される支援だと考え、それが「戦争被害者の救助」という大きな広がりになることを願っています。

46年前に終わったと思われるベトナム戦争、その戦いは2021年の現在も続いています。

 

北村元さんの「愛のベトナム支援隊」の活動は、からご確認いただけます。
Hajime Kitamura Agent Orange Victims
In 1996, Hajime was given the permission to enter the archives room. Here, he was overwhelmed by the horror of war. Source: Hajime Kitamura


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